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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)3195号 判決 1963年12月23日

判   決

東京都足立区島根町八五六

原告

石渡義吉

右訴訟代理人弁護士

榧橋茂夫

静岡県富士郡鷹岡町久沢一一一の一

被告

一八製紙株式会社

右代表者代表取締役

小沢充雄

右訴訟代理人弁護士

堀内左馬太

主文

1、被告は、原告に対し金一〇〇万円およびこれに対する昭和三七年五月一八日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の金員を支払え。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

3、この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、請求原因として、つぎのとおり陳述した。

一、訴外小沢賢司は、昭和三五年一一月二日午後五時四〇分頃普通貨物自動車(静岡一―す―七三七五号、以下本件加害車という)を運転して埼玉県草加方面から千住新橋方面に向つて進行中足立区千住弥生町二六番地先四号国道上において前方を同一方向に進行中の大型貨物自動車を追越すにあたり、該道路を歩行横断中佇立していた訴外石渡ヨシにその運転する右貨物自動車を衝突させ同人に頭腔内損傷を加え、よつて翌三日午後一〇時五〇分死亡するに至らせた。

二、訴外小沢賢司は、当時被告会社の業務のために本件加害車を運転していたのであるから、被告は、自己のため本件加害車を運行の用に供した者として、前段の死亡事故によつて生じた後記損害を賠償すべき義務あるものである。

三、本件事故によつて、原告がうけた損害は、つぎのとおりである。

(一)  医療費 一五、七二〇円

(二)  葬儀費 六七、九三五円

(三)  慰藉料 被害者石渡ヨシは、事故当時東京足立病院(足立区保木問町四七八番地所在)に看護婦として勤務していたものであるが、昭和一九年一月二一日に結婚した原告との間に三人の男児(高校在学中二人、中学在学中一人)を擁していた折柄、原告は、昭和八年に大連高業を卒業し、満州で働いているうちに被害者と結婚したのであつたが、終戦による引揚げの労苦を経験した後は、病身のため失業したり、就職したり、生活の安定を欠き勝ちであつたために、妻たる被告の活動によつて辛うじて一家の生活を維持しているのに、俄かに被害者を衷い朝夕の家族の食事の用意から洗濯等家事一切をきりもりしなければならないことになつたのである。思春期の三人の男児を抱えて今急に後妻を迎えることもできず、不自由なやもめ暮しの継続は当分これを覚悟しなければならない。この精神的苦痛に対する慰藉料は金八〇万円をもつて相当とする。

(四)  被害者のうべかりし所得衷失 被害者は、前叙のとおり、東京足立病院勤務の看護婦として月額一三、三〇〇円、年額換算一五九、六〇〇円の給与をうけていたが、死亡当時四〇歳であつたから、残在余命の範囲内で六〇歳まで稼働可能として、事故当時を基準にして一時に支払をうけるため民法所定の年五分の割合による中間利息を控除するときは、そのうべかりし給与所得の喪失額は一一四万円となる。しかして、原告は被害者の夫として、被害者死亡の時において被害者が右所得喪失によつて取得した損害賠償請求権を相続によつて取得した。

よつて、右合計金二、〇二三、六五五円のうち一〇〇万円および本件訴状送達の翌日である昭和三七年五月一八日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

被告訴訟代理人は、1原告の請求を棄却する、2、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、答弁として、つぎのとおり述べた。

一、請求原因第一項(事故の発生および被害者の死亡)は知らない。同第二項(責任原因)は否認する。被告と訴外小沢賢司との間には雇傭関係なく、本件事故は、訴外小沢賢司が個人で営む運送営業のためにその所有する本件加害車運転によつてひき起したものである。したがつて、被告には本件損害について責任原因がない。

二、請求原因第三項は否認する。

(立証関係)≪省略≫

理由

一、請求原因第一項の事実(事故の発生および被害者死亡)は、(書証―省略)によつてこれを認めることができ、これに反する証拠は全く存在しない。

二、請求原因第二項(責任原因)について考えるに、(書証―省略)によれば、本任加害者の所有名義人は被告会社となつていることがみとめられるけども、(証拠―省略)を合せ考えれば、本件加害車は、訴外小沢賢司が昭和三五年一月頃被告会社の名義で訴外静甲いすず自動車株式会社から代金六五万円で買いうけ売主に対する代金の支払は被告会社からしたが、訴外小沢と被告との間では訴外小沢が被告かうける運賃収入で決済したこと、自動車損害保険は強制、任意いずれも被告会社名義で契約されていたが、その料金は訴外小沢が支払つていたこと、被告会社には所有自動車なく、その貨物運送はもつぱら訴外小沢が引受け、本件加害車で実行していたことを認めることができ、格別これに反する証拠はない。しかして、被告代表者の供述によれば、右は被告会社の所有名義を利用して訴外小沢が運送業を営んだものであるが、その間名義料の授受はなかつたこと、被告の支払う運賃は一般と同じであつたこと、右両者間には、自動車事故を起しても、被告会社に迷惑をかけない、旨の契約書が訴外小沢から被告会社に入れられていることができる。

この事実を綜合して判断するときは、訴外小沢は、いわゆる闇運送業者であつて、被告はこれを助けて本件加害車の所有名義人となつたものと認めるべきである。そうであつてみると、被告は訴外小沢の営む貨物運送営業に本件加害車の所有名義をとおして協同したものであつて訴外小沢と被告は、自賠法三条本文の適用上は、本件加害車をこの営業の用に共同して供していたものというを相当とする。

しかして、証人小沢賢司の証言によれば、訴外小沢は、被告会社の依頼で甲府市所在野中商事株式会社の荷物を被告会社(静岡県吉原市所在)から栃木市所在の上原商店に運送した帰途において本件事故をひき起したものであることをみとめることができるから、他に免責事由の主張立証をしない被告は、後段認定の損害について賠償の責を免れえないという外はない。

三、本件事故による損害について判断するに、

(一)、(書証―省略)によれば、原告は、被害者の事故後死亡に至るまでの医療費として一五、七二〇円を佐々木病院に支払い、同額の損害をうけたことを認めることができ、反対の証拠はない。また

(二)、(書証―省略)の各記載に原告の本人尋問の結果を合せ考えれば、原告は被害者の葬儀(御供、弔問客接待、葬儀屋支払、御布施、通信交通費)等に関する費用として金六七、四一五円の支出を余儀なくされ、同額の損害をうけたことを認めることができる。(書証―省略)及び原告の本人尋問の結果によれば、右認定の出費の外に入院中の附添婦心付二、〇〇〇円、看護婦心付二、〇〇〇円、火葬場及び運転手心附一、五〇〇円、香典返しのための風呂敷、タオル代金八、九〇〇円、葬儀参列のための子供の服代金三八八〇円の支出をしたことを認めることができるけれども、これらの支出は、いずれも本件事故による損害と認めるべきものではない。

(三)、慰藉料額について考えるに、原告の本人尋問の結果によれば、慰藉料算定のため酌量すべき事情として原告が主張するすべての事実の外に、被告は原告に対し昭和三五年一一月五日香典として二万円を贈り、原告もまたこれを異議なく受領していることを認めることができる。これらの事情によつて考えるときは、原告がうけるべき慰藉料の額は原告主張の金八〇万円をもつて相当と認める。

(四)、被害者のうべかりし所得の喪失による損害について判断するに、(書拠―省略)によれば、被害者は、事故当時東京足立病院(足立区島根町四七八医療財団厚生協会経営)に看護婦としてつとめ、月額一三、三〇〇円の給与をうけていたことができるから、これを年額に換算するときは原告主張のとおり一五九、六〇〇円となること計数上明かである。しかして総理府統計局編纂の昭和三六年度日本統計年鑑によれば、昭和三五年度の東京都勤労世帯の平均世帯員は四、三五人で、平均支出は月三八、一三一円であつて、一人あたり、八、七六〇円であることが当裁判所に顕著であり、これを年額に換算するときは一〇四、〇四〇円となること明かであるから、他に格別の主張立証がない限り、被害者もまた右収入からこれに相当する支出をしていたものと認めるべく、その純収入年額は五五、五六〇円と認めるのが相当である。

他面、(書拠―省略)によれば、被害者は死亡当時満四〇歳の女性であつたと認められ、その平均余命は総理府統計局発表第一〇回生命表によれば三四・三四年であることが当裁判所に明かであり、その範囲内で被害者が原告主張のとおり被害当時の環境で満六〇歳まで稼働しえないわけではないから、その間の前記純収入額は民法所定の年五分の中間利息を控除して一時金に換算するときは金七五六、五〇八円(円位以下切捨)となること計算上明かである。

被害者は、その死亡によつて右に説示したとおり将来の所得喪失による一時金七五六、五〇八円の損害賠償請求権を取得したわけであるが、原告は、その主張の如く、当然にその全部を承継するといわれなく、遺産相続によつて法定の三分の一を相続、したものと認めるべきであるから、右損害金のうち原告が被告に対し請求しうべき金額は二五二、一六九円(円位以下切捨)であるといわなければならない。

四。そうしてみると、原告が被告に対し請求うべき損害金の総額は一、一三五、三〇四円であつて、原告の請求金額はその範囲内であるから、損害金一〇〇万円とこれに対する弁済期の後である昭和三七年五月一七日(本件訴状送達の翌日であること記録上明かである)以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める原告の請求を全部正当として認容し、民訴八九条、一九六条一項の規定を適用し主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 小 川 善 吉

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